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「しっとりとした授業」は、子どもの「テンション」「反応の速さ」「姿勢」に現れると思います。
ある英語の先生の話です。子どもたちは英語の授業は楽しいと言ってくれるのですが、なかなか学力がつかないという相談をいただきました。授業を見てみると、子どもたちが楽しく参加できるような工夫がたくさんありました。人形劇のセリフを全員で発音させたり、小グループで寸劇を取り入れたりしています。また会話の練習では次々にペアを変えて何人と話せたかを競わせるなど、コミュニケーション活動を大切にした授業です。
一見すると子どもたちは非常に積極的で、コミュニケーションがとれているように思えました。ところが、よく見ていると、子どもたちは自分のセリフをしゃべることに集中しているためか、何度も繰り返すうちにだんだん声が大きくなりテンションが上がっていきます。ペアの会話では、自分のパートのセリフばかり気にしているので、パートナーが話し終えるや否やすぐに話しだしたり、時には、パートナーが話し終えていないのにさえぎって自分のセリフを言ってしまいます。また互いに向かい合っていても、相手の顔をきちんと見ていません。子どもたちは相手をきちんと受け止めてかかわり合うことができていなかったのです。これでは、一つひとつの活動がきちんと学力として定着していきません。
そこで、相手の言葉を聞く活動を取り入れるようにアドバイスをしました。例えば、ペアの会話では、質問に対して答えを一つに決めておかず、いくつかの中から選ばせたり、毎回違うことを答えさせたりします。そして、その答えに応じて、もう一度言葉を返すのです。つまり会話を1往復で完結させずに、最低1往復半するようにするわけです。そして、会話が終わった後に、互いの良かったところを指摘し合うようにします。
また、教師と子どものQ&Aでは、"What did you have for breakfast ?" "I had bread for breakfast." といったやり取りをした後は、必ず "What did [… san] have for breakfast?" とやり取りの内容を他の子どもに聞き返すようにします。このようにして、子どもたちに友だちの言葉を聞く姿勢をつけるような工夫をお願いしたのです。
それから数カ月して、また授業を見せていただきました。子どもたちの様子は驚くほど変わっていました。自分のセリフを言うことだけに精一杯で、いわゆるテンションが高すぎた子どもたちが、相手を見てうなずきながら聞いています。友だちの質問に対しては、少し間をおいてゆっくりと考え、答えています。声も相手に聞こえるには十分です。何より相手に自分の言うことを聞いてもらいたいという気持ち、相手の言うことを聞きとろうとする気持ちが表情や姿勢に現れています。そばにいた先生に「しっとりしていますね」と、思わず声をかけました。
このように、しっとりした授業とは、子どもが互いに相手を「理解しよう」「受け止めよう」、「理解してもらおう」「受け止めてもらおう」としている授業のことだと思います。それは落ち着いた「テンション」、適度な「反応の速さ」、互いに顔を見あう「姿勢」に現れます。このような授業をぜひ目指してほしいと思います。
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